1、プロローグ「留学指令」

アーミーアカデミー魔道科候補生・サンダースは、校長室に一歩足を踏み入れた瞬間、
今までの不安が消えていくのを全身で感じた。
校長席に座っているレギン将軍の顔が穏やかだったからである。
突然、「サンダース候補生は即時校長室に出頭せよ」という校内放送が流れたときには
どうなることかと思ったのだが・・・

「サンダース候補生、ただ今参りました」
サンダースの声に、レギン将軍は軽くうなずくと、サンダースに傍らの椅子に座るよう促した。
そして、サンダースが「完璧な」動作で椅子に座ると、話を切り出した。
「早速だが、君にはマジックアカデミーに留学してもらおうかと思っている。どうだね?」
「ご命令とあれば何処へでも赴きますが・・・なぜ、マジックアカデミーなのですか?
 できれば、お教え願いたいのですが・・・」
軍人が上官に理由を聞くなど、もってのほかである。が、それでも聞かずにはいられなかった。
怒鳴られても仕方があるまい、と思いつつも答えを待つ。

「ふむ、理由か・・・そうだな。サンダース君、『戦争は一人では出来ない』の意味が分かるかね?」
突然の問いに、戸惑いの表情を出してしまうサンダースを、レギンはニヤニヤ笑いながら見ている。
サンダースは、必死に、意味を思い出した。

「・・・戦争は、突出した能力を持つ個人よりも、兵数などの、全体としての強さを考慮して行うべきもの
 である、と解しますが。」
「なるほど、たしかに教科書にはそう書いてあるね。
 だが、どうやら君はこの言葉の本当の意味を知らないようだ。
 やはり、マジックアカデミーに行ってもらわなければならないようだね。」
「・・・・・・・」
「マジックアカデミーで、ここでは学べなかったものを色々と学んでくるがいい。
 君自身にとっても必ず有益だろうからね。
 それと、あの問いの本当の答えを、自分なりに見つけてくることだ。
 それまでは、戻ってこなくていいからね。」
「・・・・・・・」
「そういうことだから。あ、これ辞令ね。『サンダース候補生は、マジックアカデミーに留学せよ。
 期間は、レギンより直接指示する。』あ、期間についてはさっき言った通りだから。」
「・・・・・はっ。」

サンダースは、震える手で辞令を受け取った。
なんたることだ、穏やかな表情に騙されたが、これでは追放同然ではないか、とサンダースは思った。
期間というのも実質無期限に等しい。
成績抜群で、総合で1,2位を争うまでの私が、なぜこんな目に合わなければいけないのか。

「不満そうな顔をしているね。まあ、こんな命令じゃもっともか。でも誤解しないで欲しいな。
 私を含めて、軍部は君には期待しているのだよ。そのための留学だ。分かって欲しい。」
 まだ不満そうな表情のサンダースにたいして、レギンは、言葉を続ける。
「かくいう私も、昔、マジックアカデミーに留学したことがあるのだよ。
 その経験から言わせてもらえば、やはり、君は一旦あそこで学ぶべきだと思う。
 それに、あそこは楽しいところだ。すぐに慣れるさ。」
そういう問題じゃない、と思ったが、一応レギン将軍も留学経験アリ、と聞いてサンダースは、
少し安心した。とりあえず、命令とあれば行くしかない・・・

こうして、多少の不安を抱えつつも、サンダースは、マジックアカデミーの門を叩くことのなったのである。


2、オペレーション1「教室の嵐」

(指令1・朝の教室を査察せよ)
「なぁなぁ、みんな知ってるか?今日、転校生がくるらしいぜ?」
朝の教室に、レオンの大声が鳴り響く。
「ちょっとレオン、どうしてそんな事知ってるのよ。あ、ひょっとしてまたカイルの占い?」
ルキアがすかさず声をあげる。
「そうだよ。昨日カイルが占ったら、そうだって。」
「ねぇねぇ、今度はどんな人が来るの?男?女?」
「ええと・・・ちょっと待ってくださいね・・・」
カイルは前と同じように、石と文字盤を取り出すと、早速占いを開始する。
「今度は・・・男の人みたいだねっ!」
文字盤を覗き込んでいたアロエが声をあげる。
「みたいですね・・・ずいぶんと背の高い人のようです」
「え?!そんなことまで分かるのかよ?!前やった時はそこまで詳しいことは分からなかっただろ?」
「あれから少し練習しましたからね・・・少しは上達したみたいです」
カイルは、少し誇らしげに笑うと、文字盤を机にしまった。
「今度の人も、いい人だといいですね。」
周りで見ていたクララが声を立てる。
「でも、前回の誰かさんは、最初、とんでもない奴だと思ったけどな〜」
レオンが、シャロンに向かって笑いながら話しかける。
「レディに対して、『とんでもない奴』というのは失礼でありませんこと?レオンさん」
「そうだぞレオン、それだから君はガサツな奴だと思われるんだ」
「セ、セリオスてめぇ・・・ケンカ売ってんのか?」
「ケンカはやめてください〜」
「またですか・・・もう授業も始まりますし、『勝負』なら後にしてくださいね」
すかさずクララとカイルが二人の間に割って入る。二人とも、
この二人のケンカを止めるのはもはや慣れっこであった。

そしてチャイムが鳴り、いよいよMr.フランシスが教室に入ってきた。

(指令2・教室に突入せよ)
「その、ナンだ。今日は転校生を紹介しようと思うのだが・・・君、入ってきなさい。」
皆、すぐに気づいたこと、それは・・・
Mr.フランシスの様子が明らかにおかしい。
あの憎たらしいほど冷徹な先生が、明らかに動揺しているのだ。
あのMr.フランシスを動揺させる、今度の転校生は、一体何者なんだ?
皆の視線が一斉に教室のドアに注がれる。
そして、ドアが開かれるのを今か今かと待ち構えた。
・・・・・・・・・・・しかし、ドアは永遠に「開かれる」ことはなかった。そして・・・・

ドカーン!!(爆発音)
ドアは、開かれること無く、この世から消えてしまったのである。
教室に入ってきた軍服を着た大柄の男は、「少し前までドアだったもの」を踏んづけながら、叫んだ。
「私の名はサンダースである!諸君、これからよろしく頼む!」
 その瞬間、皆はMr.フランシスが動揺していた理由を一瞬の内に理解した。

「え〜、サンダース君は、アーミーアカデミーからの転校生で、いきなり中級魔術師クラスの
 編入試験に合格した優秀な生徒だ。みんな、仲良くな。」
アーミーアカデミーといえば、世界トップの軍人育成学校である。Mr.フランシスがこの転校生に対して
強い態度に出られないのは、サンダース自身の威圧感だけでなく、そういう事情もあった。
「で、では早速授業をはじめようか。ああ、そうだ。明日からクラス対抗の定期試験週間だったな。
 明日から1週間は、全員一斉の授業は行わないから、各自でしっかり試験に備えるように。」
「それと、今日中に対抗戦の、試合に出る順番を決めなければならん。面倒だから、お前達で今決めてくれ」
Mr.フランシスはそう言うと、教室の隅にある教師用の机に腰を下ろした。


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