3、オペレーション2「狩場の狐」
(指令1・敵を定め、戦いを仕掛けよ)
クラス対抗戦は、クラス全員が出場する、呪文書勝負である。
出場チームは4チームで、対戦形式は、それぞれのチームから一人ずつ中央のコロシアムに上がり、
それぞれが、呪文書勝負での、自分の好きなジャンル・形式を選び、問題を出し合う。
(形式はいわゆる「店内対戦」と同じものと考えて欲しい)
それをクラスの人数分だけ繰り返し、最後にそのクラスの合計点で優勝を決めるのである。
自分の出す分野を徹底的に暗記するのは勿論、相手が出す分野にも対応しなくてはいけないので、
得意分野の深い知識と、全体についての幅広い知識の両方が求められる。
「それでは、まず皆さんの希望を取りましょうか。」
こういうことがあると、生徒会長兼学級委員長のカイルが必ず進行役を務める。
「最初はオレにやらせてくれ!」
最初というのは皆嫌がるものだが、レオンにはそういったものとは無縁らしい。
すんなり最初はレオンで決まると思われたところに、突然異議の声があがった。
「少し待たれよ。先鋒は武人の名誉。この私に申しつけ願いたい。」
皆が一斉に声の主であるサンダースの方を向く。
「1回戦出場者の希望者は二人ですか・・・どうしましょう?」
「決まってらぁ、こういう時は呪文書勝負だぜ!サンダースとやら、それでいいだろ?」
「私に異存は無いが」
「それじゃあ早速始めようぜ!フランシスのおっさ・・・・フランシス先生。立会いをお願いします」
「聞こえたぞ、レオン・・・どうやら勝負の前に雷を浴びたいらしいな」
「い、いえ、結構です・・・それより早く始めましょうよ」
「・・・・まあいい。それでは始めよう。形式は・・・・・・・・学問の呪文速詠、3ポイント先取と決まった。
お互い賭ける物は、クラス対抗戦の一番手、でいいんだな?」
「おうよ!」
「うむ」
「それでは、勝負開始だ」
(指令2・レオンとの戦いに勝利せよ)
呪文速詠とは、問題が出て、呪文のキーとなる単語が分かったらストップを掛ける。
キーワードは、呪文ごとに設定され、呪文書に伏字で書かれている。
いわゆる呪文の「前フリ」に対して、いかに速くその呪文の最重要部分が答えられるか、の勝負であるが、
そもそも伏字で書かれている部分が埋められないと、問題を全部聞いても答えられなかったりする。
「では第一問。1170年に、大司教・・・・」
「ストップである!」
「・・・・?!」
「サンダース君、どうぞ。」
「『カンタ』である。」
「正解だ。それでは第2問。牛乳などの・・・」
「ストップである!」
「ま、まじかよ・・・」
「サンダース君、答えたまえ」
「『カゼ』である。」
「正解だ。これでマッチポイントだな。」
シャロンの時と同じような展開に、皆が沈黙する。レベルの差は明らかであった。
「それでは第3問。過酸化水素をさ・・・」
「ストップだ!」「ストップである!」
「ほう、レオン君の方が少し速いな。答えは?」
「『オキシ』だろ?」
「はっはっは、問題を混同しているようだな。この問題は酵素の方を答えさせると見たが?」
「・・・その通りだ。レオン君は、間違いだな。それではサンダース君、解答権は君に移ったが?」
「答えは『カタ』である。」
「正解だ。サンダース君の勝ち、だな。一番手は決まりだ。」
「はっはっは、まったくもって勝負にならん。これでは狐狩りだな。」
「・・・・・ちくしょぉぉっ」
「それにしても、レオン君は前の勝負の時と全く同じパターンの負けか。
全然進歩してないな。これでも食らえ!!」
「ひぃっ、お、お許しを・・・」
ズガーン。
黒コゲになるレオン。
「はっはっは、弱者は即刻去りたまえ!先鋒の名誉は強者にこそふさわしい。」
「サンダース君、その言い方はちょっと・・・」
カイルがたしなめる。
「何を言っておるのだ。悲しいけど、これは戦争である!弱者は敗者、勝者にひざまづくのみである。」
クラス中が険悪な雰囲気に包まれる。
いくら実力の差が明らかだったといっても、あれ程罵倒する必要なんてあるのか。
たしかに彼は優秀かもしれないが、こんなんではチームの和を乱すのでは・・・?
「困ったものですわね」
シャロンの呟きのあと、複雑な感情が入り混じった感じのため息が、各所であがったように聞こえたのは、
気のせいだといいな、と思うカイルであった。
まだまだ続くのである!