4、オペレーション3「心の自由」
(指令1・戦闘準備を整えよ)
いよいよクラス対抗定期試験の日がやってきた。
皆、この日のために1週間みっちり勉強してきた。その証拠に目の下にくまを作っている者もいれば、
ぼろぼろになった呪文書を最後まで読み返している者もいる。
緊張と不安が入り混じった雰囲気の中、試験進行役のアメリアが試験の開始を告げた。
「それじゃあ、第1回クラス対抗定期試験を始めるわよ。みんな、しっかり勉強してきたわよね?
勉強不足の生徒さんは、おしおきしちゃうわよ〜」
「うわぁ〜緊張するよぉ・・・」
ラスクが呟く。
「初級魔術師の時にもやったが、やはりこういう観客がたくさんいる中での試験というのは緊張するものだな・・・」
「おい、どうしたセリオス、ひょっとしてお前、ビビってるのか?」
「・・・レオン、落ち着かないのは分かるけど、だからといって、試験会場でケンカ売るのはやめなさいよ」
「ルキアさんの言う通りですよ・・・仲良くいきましょう、ね?」
「クララさんが止めるのはいつものことですけど、ルキアさんが止めるのなんて珍しいですわね。
ルキアさんも、平常心を失っているんじゃありませんこと?」
「シャロンちゃん、声震えてるよ・・・・?」
アロエのツッコミに、周りから少々固いながらも、笑い声が上がった。
まったくもって馬鹿馬鹿しいな。控え室の隅で、サンダースは考えていた。
ああして馴れ合って、一体何の効果があるというのだ。戦いの前には、一人で高ぶる心を静めつつ、
これからどう戦っていくのかシミュレートしていくのが強者であり、勝者になる秘訣なのだ。
あいつらは所詮、弱者の群れでしかない・・・まったく、私はこんなところで何をしているのだか・・・・
「バトル1回戦に出場する生徒は、すぐにコロシアムに集まってください」
召集のアナウンスが流れると、サンダースはゆっくり立ち上がった。
まあいい、奴らなど関係ない。私は、私の戦いをするだけ。そう、これは私一人の戦い。
そのために全力を尽くすだけのことだ。
誰にも聞こえない程度にそう呟くと、サンダースはコロシアムへと続く道に足を踏み入れた。
(指令2・目の前の敵に勝利せよ)
一瞬、目の前が真っ暗になった。動揺したサンダースは、一言、言葉を搾り出すのがやっとだった。
「ば、ばかな・・・なぜこのようなことが・・・・」
「くくく、軍人気取りのカン違い君、君の弱点が分からない僕達だと思ったのかい?」
「?!」
「己を知り、敵を知れば百戦危うからず、だっけ?軍事上の常識だよね?」
「し、しかし、貴公らの武器は、一般知識だったはず・・・」
「兵は詭道なり、とも言うわよね?軍人さん?」
「・・・・・・・・」
何が起こったのか、話を数分前に遡って見てみることにしてみよう。
この日、コロシアムは、満員だった。
なにせ、このクラス対抗定期試験は「試験」でありながら最大の「イベント」でもあり、試験時は全ての
階級で休講となる。下は修練生から上は大魔導師まで、みなこのイベントを見ようとコロシアムに駆け
つけるのである。それだけではなく、現役で活躍している賢者までもが見に来る。
普段の試験とは、また一味違うものなのだ。
「よろしく、お願いします」
「よろしくです」
「よろしくお願いしますわ」
「よろしくお願いする」
2日前にやった練習試合の様子を見ていたが、相手は、たいしたことは無い。
使ってくる武器もこちらで対策済みだ。
・・・なにやら、3人がこちらを見てニヤニヤしているのは気になるが、やはりこの格好、変なのだろうか?
サンダースはそんなことを考えていた。
「4人そろったわね。それじゃあ、バトル開始よ!」
いよいよ始まった。初級以下を経験していないサンダースにとって、これは「初陣」である。
それでも自信はあった。・・・・・あったのだが・・・・・
「第一の選択、芸能呪文速詠!」
・・・ばかな、なぜここで・・・・
3人はニヤニヤ笑いながら、瞬く間に正解を出していく。
「第二の選択、芸能呪文速詠!」
・・・なんだって・・・・まさか・・・・
ここで、サンダースはようやく疑惑を抱いたのだが、もはやどうすることもできなかった。
そして、間もなくその疑惑は確信に至ったのである。
「第三の選択、芸能呪文速詠!」
・・・そうか、そういうことか・・・謀ったな、貴様らっ・・・・おのれっ、おのれっ・・・
そして、動揺したサンダースは、自らの選択も詠唱失敗(スペル・ミス)を繰り返し、終わってみれば3人に
大差をつけられ、冒頭の会話に至ったのであった。
「まったく、意気込んで先頭で出てきた奴がこんな点数ではね。お前、死んだ方がいいんじゃないか?」
「その通りだな。で、結局その服は何?コスプレなら別のところでやって欲しいね」
「ホント、ここをどこかとカン違いしてるようね」
不幸中の幸いにして、サンダース自身にはこれらの言葉は聞こえていなかった。
自分自身の甘さ、弱さへの反省で頭が一杯であったのだ。
・・・・・しかし、一部始終が聞こえてしまい、そのため大騒ぎとなっているところがあったのである。
「レオン、落ち着いてください。君が行ったところでどうにもなりませんよ」
今にもコロシアムに出て、例の3人に殴りかかりそうなレオンを、
カイルは、後ろから抱きついて必死に止めていた。
「うるせぇ、カイル!俺はああいう陰険な奴が大っ嫌いなんだよ!一発殴らないと気がすまねぇ!」
「でもレオン、君は彼に馬鹿にされたはずじゃなかったか?
君が彼のために殴る理由は無いように思えるが・・・?」
「黙れセリオス、そんなんじゃないんだよ!これは・・・俺自身の正義の問題だ!」
「でもたしかに、僕もああいうのって良くないと思うなぁ・・・」
ラスクがぽつりと呟く。
しかし、騒然としていた控え室は、次の瞬間、「しん」と静まり返ってしまった。
サンダースが戻ってきたのだ。
そして、次の瞬間、皆は信じられないものを見ることになった。
サンダースが、土下座していたのである。
そして次のページに行くのである!