・・・遠くで雷鳴が聞こえる。
はっとしてルキアは顔を上げる。教室の方だ。読んでいた本を慌てて閉じ、
教室めがけて走り出す。
花壇の手入れをしていたカイルとアロエは、雷鳴に顔を見合わせて、やれやれと
溜息をつく。
「レオン!セリオス!!喧嘩の原因は何だ?」
教室に響き渡るフランシス先生の声。二人の男子生徒が電撃の痛みに顔をしかめながら
立ち上がる。
「喧嘩じゃねぇよ!」
燃える様な赤い髪の少年、レオンが拗ねたように答えると、
「そう、これは勝負です」
もう一方の少年、セリオスも同調する。
何でも勝負したがるレオンと、負ける事が死ぬより嫌いなセリオス。
この二人が同じクラスになったのではぶつからない筈がない。
どうして先生達にはそんな簡単な事がわからないのか、と教室にたどり着いたルキアは思う。
「・・・またですか?」
諦めた様な声。いつの間にかルキアの隣に立っているカイルとアロエ。
「・・・仲悪いですぅ」
長い長い小言の後、不機嫌そうに立ち去るフランシス先生。
「・・・これで121勝120敗だからな」
「ふざけるな・・・僕が121勝、君が120勝だ」
途端に言い争いを始めるレオンとセリオスである。
マジックアカデミー初級魔術士クラスの風景である。
もうすぐ中級魔術士への昇格試験だというのに、レオンとセリオスの勝負、
いやバトルは本来の授業範囲を超え、日々エスカレートしていた。
「どうしますかね、あの二人・・・」
心配そうなカイルの声。
「知らないわよ。放っておけば?」
素っ気無いルキアの声。
一番先に駆けつけたのにね、と思ったがアロエは口に出さずに微笑んでいる。
「それでは中級魔術士昇格試験の内容を発表する」
帰りのホームルーム。生徒達の悲鳴の中、響くフランシス先生の声。
「午前中はクイズ形式による知識試験、午後は初級魔術実技だ。」
「特に初級魔術実技には飛行試験が含まれる。基本的な飛行能力を・・・」
フランシス先生の声を最後まで聞き取る事が出来ないレオン。
放課後。グラウンドに設けられたベンチに寝そべり、レオンは空を見上げていた。
「・・・何してんの?こんな所で。」
不意に声をかけられ跳ね起きる。振り返るレオンの視線の先に立っているルキア。
「・・・何でもねーよ。」
訪れる沈黙。立ち去る気配の無いルキアに、仕方なく問いかけるレオン。
「なぁ、お前・・・飛べるよな?」
「当たり前じゃない。・・・え?まさか、レオン?」
ぽつぽつと語り始めるレオン。
いつもと違う真剣なレオンの話しぶりに、ルキアから笑顔が失われていく。
両親を幼い頃に失くしたこと。親代わりの姉に育てられたこと。
魔術、武術その他、生きていくのに必要となる全てを姉に教えてもらったこと。
そしてその姉が、飛行術だけはどんなにせがんでも教えてくれなかったこと。
入学以来、どんなに練習しても1cmも浮く事さえできなかったこと・・・。
語り終えて、うなだれたままのレオン。
「一緒に練習しよう。わたしが教えてあげるから。ね、レオン?」
精一杯の明るさと生真面目さが込められたルキアの声に、レオンは黙って頷く。
帰路に着く二人。物陰から姿を現したのは セリオスである。
思わず盗み聞きをしてしまった後ろめたさか、セリオスの顔は、どこか蒼褪めている。
それから数日の間、レオンとルキアの特訓が続いた。
しかし、ルキアの献身的な努力にも関わらず、箒にまたがったレオンの脚が
大地を離れる事は決してなかったのである。
「もう・・・いいよ・・・ルキア」
これ以上ルキアを自分に付き合せては、二人共落第である。
そんな事は絶対にできない、とレオンは首を振る。
「ありがとう。後は自分で何とかするからさ。なっ?」
場違いに明るい去り際のレオンの声。
「・・・ルキア」
突然のセリオスの登場に、慌てて涙を拭うルキア。
「セ、セリオス?どしたの?こんな時間に?」
セリオスはルキアに、古びたペンダントを差し出す。
「何・・・これ?」
「何も聞かないで、これを明日、レオンに付けさせてくれないか?」
セリオスの声には切実な響きがこもっている。
「・・・あいつの事は気に入らないが、借りがあるんだ」
ペンダントとセリオスを交互に見比べるルキア。
「決して危険な物でも、試験で不正行為になる物でもない」
真っ直ぐな視線に、思わず頷く。
「でも、どうして私に?」
「僕からこんな物を渡されて、あの馬鹿が素直に身に着ける訳がないだろう?」
そう呟くセリオスは、僅かに微笑んだ様にルキアには見えた。
そして、試験当日。
午前中の筆記試験をまずますの成績でパスした5人。
昼食の後、レオンはルキアに呼び出され、半ば無理やりにペンダントを首に巻かれる。
「な、何なんだよこれは?!」
「お守りよ、お守り!わざわざレオンの為に手に入れてきたんだから!」
そんな事を言われると、悪い気はしない。レオンはあくまで嫌々である風を装って、
ペンダントを制服の襟の中に仕舞いこむ。
「よし、それでは次はレオンだ」
フランシス先生の声がグラウンドに響く。足取り重く前に出るレオン。
セリオスはそっとアロエに合図を送った。
「本当にいいの?」
「大丈夫だ。僕が保障する」
二人のやり取りに気がついたカイルは、気づかれない様に傍に近づいていく。
アロエの唇が動き、短い詠唱が流れる。
ルキアは目を疑った。うなだれていたレオンの顔が、まるで無邪気な子供の様に
輝いたと思った瞬間・・・レオンの姿が唐突に消えたのである。
そして遥か頭上から、レオンの笑い声が聞こえてきた。
「あははっ・・・気分最高だぜっ!」
空中で見事に宙返りを決めるレオン。見守る生徒達からどよめきと歓声が飛び出す。
レオンが飛んでいる。ルキアは泣き笑いになって見上げていた。
アロエも手を叩いてはしゃいでいる。
空中のレオンを眩しそうに見上げていたセリオスは、ふと気配を感じて振り返る。
「説明して・・・くれますね?」
にっこりと微笑むカイル。
「・・・ああ」
穏やかなカイルの表情の中に、断固として誤魔化しを許さない意思を感じ、
セリオスは観念した様に呟く。
そしてもう一度空中のレオンを見上げて、囁く様な声を洩らした。
「あいつは・・・飛べたんだ」
(To be continued.)
クララたそ「続き、読まれますか?」 はい/いいえ
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管理人注釈
というわけで、がりくそんさんによる、レオン君主人公SS「飛べない魔術士」でした。
見事に、私のワガママのとおりに作品を作ってくださって、さらに世界を広げることまで
して下さって、、、頭があがりません(笑
素直に、一読者としても、続きが気になるところです(ぉ
レオン君、、、何があったんでしょうね。
続きは、、、また、がりくそんさんに頼み込むしか(笑
この作品を読まれ、感想等を書いてみようかと思われた方、また、続きが読みたいと
このHPのBBS、もしくはレオン同盟さんのBBSに、がりくそんさん宛で書き込まれると
良さそうです。皆さんの催促があれば、がりくそんさんも、さらに続きを書くべく、頑張ら
ざるを得ないはずですし(なんて悪い奴だ>ALICE(w
1月22日追記
本日、がりくそんさんのSSの続編を、うpさせて頂きました。
クララたその問いに正しく答えると、続きが読めます(爆
皆さんのご意見、ご感想、そして投稿こそが、このコンテンツを盛り上げます。
ご協力、宜しくお願いしますm(_ _)m