In RED


緋、紅、朱、赤………炎の中で聞こえるのは「アイツを頼む」という男の声。
そして途切れる意識…。
 
そこはかつて緑豊かな森だった。
だが今は一面焦土と化している。
木の残骸に混じった黒い塊の傍に佇む幼い少年がひとり。 
その瞳は虚ろで、涙だけがただただ流れるだけ。 
「父…さん…」
少年の父さんはこの場所で死んだ。炎の塊となってここに落ちていった。
そして少年の傍にある塊。それが彼の父さんだった…。
ふと、少年の焦点が定まる。
それは父さんだったもののちょうど中心に転がっていた。
少年は無言でそれ――赤い卵を拾った。

月日は流れる。
かつて起こった悲劇の傷跡が消えてしまうくらい、時は穏やかに過ぎていった。

 2
 
春。桜が咲くこの時期、マジックアカデミーは入学の準備であわただしい。
入学者の書類に目を通していた男教師は、ふと奇妙なことに気付いた。
そしてその足で、ある部屋に赴いた。

「このような事例は今までありません」
学園の一室で、男教師――フランシスは言った。
その表情は、普段の彼からは想像出来ないくらい固かった。
「たしかに…」と続くのは眼鏡の女教師――アメリア。
「あれはありえないことですわ…。入学前の生徒がマジックエッグを持っているなんて…」
「でも…。あの人なら、できたでしょうね…」
微笑を浮かべながらもう1人の女教師――ミランダは言った。
「もうしばらく、様子を見てたらいいと思うわ」
その一言で、全ては決まった。
異例ともいうべき、マジックエッグをもつ生徒。彼の名はレオン、といった。

 3

俺が生まれたときに印象に残ったもの。それは赤い色と
「なんだ〜?餅か、コレ?」
という、失礼極まりない一言だった。
ムカついたので、首に巻きついてやった。
「何すんだよ!?餅のくせに!!」
ますますムカついた。なので、更にキツく巻きついた。
これが俺とレオンの出会い。
でも、初めて会った筈なのに、妙に懐かしさを感じてしまうのは何故なのか。
俺自身よく分からなかった。

主人をけなすのはあまり好きじゃないが、はっきり言ってレオンはバカだ。
得意なものはスポーツ。あとはからっきしで、成績は下から数えた方が早い。
でも、何度も言うがレオンはスポーツだけはすごいんだ。
委員長のカイルだって足元に及ばない。
それだけ運動神経のいいレオンでも、1つだけできないものがあった。
それは空を飛ぶこと。
魔術士には欠かせない能力。
なのにレオンは全く飛べない。
魔法の力は充分なのに、なぜか飛ばない。
昇級試験の迫る頃、ルキアが放課後に特訓してくれたが、アイツの身体は1ミリも浮かなかった。
そんなレオンを見て、ふと、ある感情が沸き起こる。
 
アイツハトブノガトテモウマカッタノニ、ナンデオマエハダメナンダ?
アイツノムスコナラデキルハズダロ?

何だ?「アイツ」って誰なんだ?俺はレオンの父親なんて知らないはずなのに…。
………いや、覚えていないのか…?え?オボエテイナイ…?いったいどういう……。
 
ほうきにまたがって、うんうんうなっているレオンの顔を見上げる。
どこか見覚えのある顔。初めてのはずなのに懐かしいと感じた赤い髪。
紅い瞳。そして蘇る、記憶の片隅に残るあの色。あかい、色…。
 
緋、紅、朱、赤………炎の中で聞こえるのは「アイツを頼む」という男の声。
そして途切れる意識…。

…あぁ、思い出した…。
俺は昔、レオンの父親の相棒だったんだ。
今のこの姿とは違うけれど、俺はアイツとともにあった。
炎に包まれる直前、アイツの口から紡ぎだされた言葉は、己を炎から守るための呪文ではなく、
俺を卵に戻す呪文――禁呪だったのだ。
そして俺は一切の記憶を失い、レオンの手で再び生まれた、いや、目覚めたんだ。
 
突然思い出した事実に、俺はいたたまれなくなって、レオンを抱きしめた。
ゴメンよ…。お前の父親は、俺の命を救うために死んでしまったんだ。
だから俺は、ずっとずっとお前のことを見守っていくよ。それがアイツとの約束だから…。
「ぐ…苦じい…やめ゛ろ…モッチー…」
レオンは失神した。どうやら力みすぎたようだ…。

 4
 
ついに昇級試験の日が来た。
前半の筆記試験は、レオンにしてはまずまずの出来だった。
問題は午後の飛行試験だ。
昼休みの後、運命の時間がやってきた。
レオンの表情はいつも以上に固い。
その首にかかっているのはルキアからお守りだと言って渡されたペンダント。
レオンは気付いているのだろうか。
それはアイツが身に着けていたものだと…。

「よし、それでは次はレオンだ」
フランシスの声がグラウンドに響く。重い足取りで前に出るレオンと俺。
レオンはゆっくりとほうきにまたがった。そして俺もレオンの身体に巻きつく。
レオンの意識がほうきに集中していく。高まる魔力。そして………

奇跡が起こった。

急上昇する俺たち。眼下には驚く生徒達の顔、顔、顔。
「あははっ…気分最高だぜっ!」
空中で見事に宙返りを決めるレオン。見守る生徒達からどよめきと歓声が飛び出す。
その声を遙か上空で聞きながら、俺は静かに思う。

なぁ、見てるか?お前の息子、空飛んでるぜ。
最初は誰かの魔力の干渉があったけど、今こうして飛んでいるのは紛れも無くレオンの力だ。
やっぱりお前の息子だけあるよ。

 5

空はいつの間にか真っ赤になっていて、
魔力を使い果たしたレオンはふらふらと地上へ降り立った。
そしてそのまま教室へ向かう。
甦るのは忌々しい、あかい記憶。
塞がっていたと思っていた傷口から、どくどくと赤い血が流れていく。
そして記憶の中の時間はあの頃へと逆流していく。

焼け野原の中で、父の亡骸から見つけたマジックエッグ。
彗星のように落ちていく炎の塊。巨大なドラゴンの焔。
轟く雷鳴。一本のほうきにまたがり追っ手から逃げる少年達。ひとりは幼いレオン。
そしてもうひとりは、冴え冴えとした銀の髪の少年。
名前も知らぬ少年。だが今なら分かる。

「セリオースッ!!」
レオンは絶叫し、崩れるように倒れた。その手には父の形見のペンダントが握られていた。




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管理人注釈
 う〜ん、、、
 注釈って言っても、何も付け加えられないですよね(汗
 完全に、私の手から離れ、がりくそんさん達により、進化したSS。
 、、、って、そういえば。
 レオンが飛べないって言う設定から、ここまで来たのですね(核爆
 いやぁ、設定とは恐いものですw
 本当に、がりくそんさん、七生さん達のレオン愛には脱帽です(ぉ
 私では、ここまでレオンらぶな話は書けませんOTL
 これからも、是非レオンらぶ前面に押し出し、頑張って頂きたいです!
 、、、がりくそんさんには、是非、総帥らぶも前面に押し出して頂きたくw
 今は、C・ドクテンさんが、単独で頑張っておられますからねww