「レクトールお兄ちゃーん!」

ある山の、中腹。

「悪に染まった賢者を筆頭とする山賊」を掃討すべく、結成された貴族軍。
その貴族軍の宿営地で、まだ、あどけなさの残る、13才の少女の声が響く。
その声は、焦燥し、半ばかすれていた。

「なんだい、シャロン?」

レクトールと呼ばれた青年は、純白の、上質なローブに身を包んでいる。
純白は、大魔導士の証。
司令官たる大賢者は別格だが、彼を除いては最強に位置する、大魔導士。
今回の掃討作戦の主力で、最前線を戦うのが、大魔導士である。
その中でも、レクトールはトップクラスの魔力の持ち主。
並の賢者と遜色ない実力者だった。

「――おじさん達と一緒にいろって、言ったじゃないか」

宿営地の一番端で、見張りを勤めているレクトール。
一回り近く年の離れた従姉妹に、少し困った顔を浮かべつつも微笑みかえす。

「ここは、危ないんだから、、、」
「そうよ、危ないの! だから早く逃げないと!!」

レクトールが言葉を紡ぎ終えるより早く、シャロンが叫ぶ。

「占ったの! お兄ちゃん、このままここに居たら――!」

普段の、落ち着いたシャロンとは違う。
その様子から、占いの結果がどういうものだったのか、大体、想像は出来る。
彼女には、底知れない才能がある。
占いの精度も、恐ろしいほど高い。
だが、それでも、自分達がやらなければならない。
たとえ、どのような運命が待っていようとも――。

「、、、大丈夫だよ、シャロン」

レクトールは、まるで自分に言い聞かせるように囁く。

「相手は、賢者と数十人の野盗だ。 油断さえなければ、命を落とすことは無い。」
「でも――!」

蒼褪め、震えるシャロンに、彼が続ける。

「シャロンの占いは、確かに凄いよ。 でも以前にも、こういうことがあっただろ?」

さらに、ゆっくりと、シャロンを落ち着かせるように言う。

「、、、僕は、必ず生き残る。 戦いが終わったら、また一緒に、あの場所へ行こう」
「――約束してよね、お兄ちゃん」

シャロンは、いまだ震えのやまぬ細い体で、精一杯強く、レクトールを抱きしめ――
そして、もといたテントの方に、走っていく。
何度も何度も立ち止まっては、振り返りながら――。

「さて、、、」

レクトールは気付いていた――前方より迫る、異常な気配に。
禍禍しい気配に。

結界の詠唱を始めた彼の前に、先発隊隊長の大魔導士――
同窓の、友人の大魔導士、彼女の使い魔が、メモを持ち飛来する。
メモには「賢者じゃない」とだけ、書かれていた――赤黒い、液体で――。

血がにじみ出るほど唇をかみ締め、結界術の最終段階に移行する、レクトール。
そこに、その賢者は現れた。
一目で判る。
彼自身も含め、ここの誰よりも――シャロンの父親、「大賢者」よりも、強い。

深い紫色の、恐ろしい、身の毛もよだつオーラを纏い、堕ちたる賢者が呟く。

「ふむ、、、あの女大魔導士よりは、楽しませてくれそうだな」
「僕は、負けない――レイアの仇も、とる!」
「ふふっ、そうあって欲しいものだな」

一瞬で詠唱をし、杖を空間より取り出す、凶悪な魔力を持つ銀髪の賢者。
それと同時に、レクトールの結界は完成した。
――彼の居る場所と、宿営地とを完全に遮断する結界が――。

「お兄ちゃんッ!」

結界の向こう側から、シャロンの声が聞こえた。
だが、レクトールは振り返らない。
振り返らないままの彼の方から、優しい声が、聞こえた。

「ごめん――また、いつか会おうね――」

次の瞬間、宿営地側に居た者全てが、呟くような「禁術」の詠唱を聴いた。
少し知識のある魔術士なら、誰もが意味を知る、その詠唱。
だが、銀髪の賢者の側には、聞こえていまい――。
銀髪の賢者は、余裕の笑みを浮かべ、徐々に接近してくるだけだ。

「やめるんだ、レクトールッ!」

響き渡る、シャロンの父の声、そして――

「いや、いやよ、、、?――そんなの、そんなのいやぁーっ!」

絶望に打ちひしがれ、力の限り泣き叫ぶ、シャロン。




















目を、覚ました――また、あの時の夢だった、、、

「シャロンさん、、、大丈夫?」

隣のベッドで寝ていたクララが、声をかける。
自分では気付かなかったが、現実でも涙を流していたようだ。
頬が、熱い――。

「大丈夫、大丈夫よ、、、」

だが、涙が止まらない。
一番悔しくて、そして、切ない思い出に――。

「シャロンさん、、、」
「、、、っ、ヒック、、、うっ、、、」

押さえ切れない、感情と――涙。
忘れられない、忘れてはいけない、「あの日」。

あの日から、今日で丁度一年だったわね――。

――少し、落ち着いた。
シャロンは、クララに、問いかける。

「クララさん、貴女には――貴女にだけは、聞いて欲しいの、、、聞いてくれる?」
「ええ、もちろんです」

クララは、優しく微笑み、応えた。


「別館のトップに、戻りますわよ。」


※作者(管理人)注
お粗末様でしたm(_ _)m
今日(3月16日)、シャロン様が夢に出てきたんですよ♪
ちょっぴり、シャロンカードが作りたくなりました(激マテ
夢の中の、健気な彼女からインスピレーションを頂いて、書き上げましたw
やっぱり、インスピレーションがあると書きやすいです(^^;
以前言っていた「シャロンとクララのエピソード」の追加部分とは違います。
ただ単に、インスピレーションがあったから書いただけです(ぁ
、、、っていうか、そういうのが無いと書けない俺、もうだめぽ、、、