レオンの微妙な一日
「───では、今回の合格者を発表する」
Mr.フランシスの声が響き、いよいよ中級魔術師昇格試験の発表が始まった。
「合格者はアロエ、セリオス、ルキア、カイル……そして、レオン」
燃えるような紅い髪の少年がMr.フランシスを仰ぎ見る。
「良く頑張った。全員合格だ」
その声に、少年──レオンの顔に笑みが浮かぶ。
「よっしゃあ!!」
伸びやかな身体全体を使ったガッツポーズは、彼の素直な喜びを物語るに十分だった。
「おめでとう、レオン君」
「おめでとー」
クラスメートから送られる賛辞の言葉。それが、今のレオンには何より嬉しかった。
「ね、みんなで昇格祝いのパーティやらない?」
教室に着くなり、赤暗色の髪をした少女・ルキアが言った。
「ああ、それは良いですねえ」
それに応えたのは、青年と呼んでも違和感の無い、落ち着いた雰囲気を持つ少年・カイル。
「そういうことなら、料理は僕が作ります」
「マジで!?」
カイルの言葉に真っ先に反応したのはレオンだ。
机を挟んで向かい合い、無邪気な笑顔で問うて来る。そんなレオンを微笑ましく思いながら、
カイルは眼鏡の奥にある、優しさをたたえた瞳を細めて肯いた。
「ええ。本当ですよ」
春風のような柔らかい口調。
「やりぃ!」
カイルの料理が巧いのは周知の事実であるため、その提案は歓迎された。
「レオン君には色々ご馳走して貰いましたからね。今度は僕がご馳走します」
「え!?」
瞬間、カイルとレオン以外のメンバーの時が止まった。
「いや、でもアレは……」
レオンとカイルは、正反対の性格ではあるが仲が良い。加えて二人はルームメイトである。
それもあいまって、レオンは───気が向いた時だけだが───彼に手料理を振る舞っていたのだ。
「とても美味しかったですよ」
カイルの言葉どおり、レオンの調理の腕は素晴らしかった。もっとも、体育会系な容姿と、
ガサツと思われがちな性格からは想像も出来ないが。
「アレくらいなら誰だって出来るさ」
「……ねえ」
二人の会話を遮ったのは、ルキアだった。
「二人でさっきから何の話してんの?」
心なしか、声が震えている。
「ああ、レオン君の作ったご飯がとても美味しかったって言ってたんですよ」
「はあ!?」
ルキアの大声が教室に響き渡る。
「カイルぅ、冗談は止めてよ」
「冗談じゃないですよ。レオン君は、とても料理が上手なんです」
確かにカイルは真実を述べているのだが、いかんせん内容が内容なだけに、
誰もそれを鵜呑みにしていなかった。
「笑えない冗談は、何度も言うものじゃないな」
やはり、と言うか何というか、セリオスも不審そうにカイルを流し見る。
「セリオス。だから僕は…」
「残念だ。君だけは人間的に尊敬していたのに…」
ふう、と溜息を吐く。
「コイツの料理が巧いだなんて戯言を言うなんてな」
「セリオス、テメェ!」
咄嗟にレオンがセリオスの胸倉を掴む。
「よくもカイルのこと馬鹿にしやがったな…!」
射殺さんばかりに睨みつけるレオンの紅い瞳を、セリオスの涼やかな蒼い瞳が受け止める。
暫しの沈黙が訪れた。
「喧嘩はやめてよ」
不意にレオンの背中に、可愛らしい声が投げかけられた。
亜麻色の髪を、薔薇色のリボンで飾った小柄な少女──アロエだ。
「皆仲良くして、お祝いしようよ。ねっ」
つぶらな鳶色の瞳が、二人を交互に見渡す。
「ふう、ここはアロエの顔を立てるか」
セリオスはそう言って、胸倉を掴んでいたレオンの手を振り解く。
「言い過ぎたようだ。すまない」
「いえいえ。僕は気にしていませんから」
セリオスの謝罪に、いつもと変わらぬ笑みで応えるカイル。
「では、レオン君。改めてお手伝いお願いします」
「ん…判った」
放課後、レオンたちは食堂に居た。
アロエが食器を並べている間、ルキアとセリオスが菓子と飲み物を買い出しに行く。
カイルとレオンは調理に大忙しだ。
外はすっかり陽が落ち、ちらほらと星が瞬きはじめていた。
本来ならこの時間、生徒がアカデミーへ居残ることはまずない。
付き添いとしてMr.フランシスが居るものの、初めて体験する夜の学校の雰囲気に、
レオンたちは皆浮かれていた。
やがて全ての準備が整い、皆が席に着くと、ルキアが乾杯の音頭をとる。
「じゃ、中級魔術師昇格を祝って…かんぱーい」
「かんぱーい」
乾杯が済み、カイルたちの手料理が振る舞われた。
全ての料理をレオンが手伝ったと聞き、さしものMr.フランシスも、
最初は不安を拭い切れないようだったが、調理場から聞こえていたよどみない包丁捌きと、
鼻腔をくすぐる美味そうな匂いにすっかり安心し、賞賛の言葉を投げかけながらその料理を口にした。
頑なにレオンの腕を否定していたセリオス、半信半疑だったルキア。
そして、口には出さなかったがやはり心の何処かで危惧していたアロエも、
レオンの料理に舌鼓を打ち、カイルの証言に嘘が無いことを実感した。
「ヒトは見かけによらないって、ホントなんだなぁ」
アロエの微かな呟きを聞き取ったのは、カイルただひとり。
『僕もそう思いますよ。アロエ』
と、カイルが思ったかどうかは定かではない。
───因みに、後片付けの間、Mr.フランシスの姿を見た者は居ない。
───おしまい(笑)───
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管理人注釈
ありがとうございました、たちばなさん。
折角作っておられた作品を、さらに加工して投稿して下さったのには、頭が下がるばかりです(汗
やっぱり、シャロンがいない場合、ああいうところで絡んでいくのはセリオスしか、、、
と思っていたら、実際そうなってて「うぉっ!」っていう感じでした(笑
重要な設定となりました、「レオン君が料理ウマイらしい」説。(説か?
また、どこかで使えてしまいそうなので、大事にとっておくことにしましょう(ぉ
たちばなさんの作品は、もう一つ頂いています。
随時、うpしていきますので、皆さんこう期待!